人気作家の渡辺淳一(1933.10.24-2014.4.30)が亡くなりましたが,北海道の出身,札幌医科大学卒,医学博士,代表作は「光と影」「遠き落日」「失楽園」など,一般には恋愛小説家の印象がありました。
「あなたはうんと詩を読んだらいいですね」。ある女性記者にデスクはこう勧めた。戦後間もない小紙の大阪本社学芸部,デスクは後の作家・井上靖,女性記者とは同じく山崎豊子さんだった。
ー 中略 -
「あなたはおそらく生涯,原稿用紙と万年筆だけがあればいい人なんだ。臆せず書くことですよ」。こちらは新聞社を離れた山崎さんへの週刊新潮の名編集者の斎藤十一の助言である。
毎日新聞2013.10.1「余禄」
すごい時代があったんですね。
井上靖(1907.5.6-1991.1.29)は静岡県伊豆市で育ち,京都大学文学部卒,文化勲章受章,代表作は「闘牛」「氷壁」「天平の甍」「敦煌」など,しばしばノーベル文学賞の候補にあがったようです。
山崎豊子(1924.11.3-2013.9.29)は大阪市船場の出身,実家は老舗の昆布屋「小倉屋山本」で,相愛女学校卒,京都女子専門学校(現・京都女子大学)国文学科卒です。
山崎さんの作品は,事実に基づいた社会性のあるものが多く,ほとんどが映像化・ドラマ化された話題作と言っても過言ではありません。
デビュー作
「暖簾」 生家の昆布屋をモデルに親子二代の商人の物語
2作目
「花のれん」 吉本興業を創設した吉本せいをモデルにした作品で,直木賞受賞
「ぼんち」 足袋問屋の息子の放蕩・成長を描いて,市川雷蔵主演で映画化・ドラマ化
「白い巨塔」 大阪大学医学部をモデルに現実を鋭く描いて話題を呼び,田宮次郎主演で映画化され,そのご何度もTVドラマ化された
「華麗なる一族」 神戸銀行(現・三井住友銀行)をモデルにした経済小説で,佐分利信主演で映画化,そのご2度にわたりTVドラマ化された
「不毛地帯」 商社を舞台にした不毛な商戦を描き,映画化・ドラマ化
「大地の子」 中国残留孤児をモデルに2つの祖国のもとで逞しく生きる青年を描き,上川隆也主演でNHKでTVドラマ化された
「沈まぬ太陽」 日本航空社内の腐敗と航空機事故を扱い,渡辺謙主演で映画化
「運命の人」 沖縄返還にまつわる密約を巡って毎日新聞社の西山記者をモデルに描き,本木雅弘主演でTVドラマ化
「約束の海」 旧海軍将校の父と海上自衛隊員の息子を主人公に戦争と平和を問う大河小説で,未完の絶筆作品となった
多くの話題作を提供した山崎さんですが,多量の取材に基づいて執筆するのですが,その取材原稿をそのまま引用したりするために,何度も盗用疑惑を指摘されてきました。
しかし,亡くなる直前まで精力的に執筆活動にいそしまれ,その作品がことごとく世間に評価され,幸せな作家生活であったと思います。