ミュージカルは楽しい

このごろ世間に流行るお笑い芸人といえば,

● クマムシ「あったかいんだからぁ
● どぶろっく「もしかしてだけど」
● テツandトモ「なんでだろう

いずれも歌入りで,それぞれにキャッチフレーズがあり,それにそこそこ音楽性もあるというのが面白いところです。

昔の音曲芸人といえば,独自のテーマソングで始まりました。

横山ホットブラザーズ(アキラ・マコト・セツオ,1936-)
「明るく笑ってリズムショー 楽しく唄ってリズムショー 仲良く陽気に奏でるホットブラザーズ」(初期のもの)

かしまし娘(正司歌江・照江・花江,1948-)
「ウチら陽気なかしまし娘 誰が言ったか知らないが 女三人寄ったら かしましいとは愉快だね。ベリ-グッド ベリ-グッド お笑いお喋りミュージック 明るく歌ってナイトアンドディ ピーチクパーチクかしましい」

いずれも兄弟姉妹でトリオ,というのが面白いですね。
横山さんのところは,最初は父親の東六さんが創めて,紆余曲折を経て,現在の兄弟トリオになっています。

これらの原点はなんといってもオペラミュージカルでしょうね。
ところでオペラとミュージカルの違いはなんでしょうか?

オペラはヨーロッパで発生したクラシック音楽であり,ミュージカルはアメリカで発展したポピュラー音楽です。

オペラでは歌もオーケストラも生ですが,ミュージカルでは音楽は全てマイクを使いPA(Public Address System,拡声装置)を通してスピーカからの音を聴くことになります。

大きな違いは歌唱です。オペラでは歌・歌唱がもっとも重要な要素で,肉声を使うため,ベルカント(美しい歌唱の意)唱法という特別な発声法を訓練する必要があります。

ミュージカルでは舞踊(ダンス)も重要な要素で,歌手が歌いながら踊るのが基本ですが,オペラでは歌手は歌のみで,舞踊が必要な場合はバレエダンサーが踊ります。

ガーシュウィン(98-37)作曲『ポギーとベス』(1935)はアメリカのオペラに分類されていますが,ミュージカルの先駆的な作品でもあります。出演者全員が黒人というのも特別です。
劇中で歌われるヘイワード・詞「サマータイム」はポピュラーソングのスタンダードナンバーになっています。

ミュージカルの名作はそれこそたくさんありますが,独断で挙げる三大ミュージカルは,

●『マイ・フェア・レディ』(1956,映画化64)
●『ウエスト・サイド物語』(1957,映画化61)
●「サウンド・オブ・ミュージック」(1959,映画化65)

いずれも50年代にブロードウェイ公演から,60年代に映画化され,世界的な大ヒット作品となりました。
もちろん映画は全作見ましたし,前2作はアメリカ人公演の舞台を日本で見ましたし,楽譜も全作持っています。
映画を観る前に,楽譜を見て曲を覚えて,映画を観ながら歌を口ずさんだことを覚えています。

今回は『マイ・フェア・レディ(My Fair Lady)』を取り上げます。

原作は英国のジョージ・バーナード・ショー(1856-1950)戯曲『ピグマリオン(Pygmalion)』(1912)ですが,彼はミュージカルには否定的だったため,存命中は上演できませんでした。

しかし,ショーの「ピグマリオン」も,ギリシャ神話のキプロス島の王ピグマリオンが,理想の女性ガラテアを彫刻し,その女像に恋するようになり,女神アフロディテがそれに生命を与えて妻とさせた,という話が元になっています。

ミュージカル化は,作詞・脚本:アラン・ジェイ・ラーナー,作曲:フレデリック・ロウで,ブロードウェイ上演では56.3~62.9の6年6か月のロングランとなりました。
初演ではジュリ・ーアンドリュース(35-)がヒロインを務めました。

映画化(64)ではオードリー・ヘプバーン(29-93)が主演しましたが,歌唱はマーニ・ニクソン(30-)の吹替えです。
ジュリー・アンドリュースに主演させなかったのは残念だ,という人たちが大勢います。
じつは,1965年のアカデミー賞で,『メリー・ポピンズ』のジュリー・アンドリュースが主演女優賞を取り,『マイ・フェア・レディ』で取れなかったオードリー・ヘプバーンが大いに悔しがった,という逸話が残っています。

あらすじは,ロンドン下町の花売り娘イライザを,言語学者ヒギンズ教授とピカリング大佐の賭けで,粗野で下品な言葉をつかう娘を淑女(レディ)に仕立て上げる,という物語です。
もちろん,ヒギンズはキプロス王のように,自分で造り上げたはずの女性イライザのとりこになってしまうのです。

コックニー(Cockney)と呼ばれるロンドン訛りでは,エイ[eɪ]とすべき発音がアイ[aɪ]になり,たとえばデイ day をダイ[daɪ]と発音します。
それを矯正するために” The Rain in Spain “「スペインの雨」では,

The rain in Spain stays mainly in the plain
スペインの雨は主に平野に降ります

という陳腐なセリフを反復練習させ,正しいエイ[eɪ]の発音を覚えさせようとします。

オーストラリア方言でも同じような傾向があり,コックニーの人たちが移民していったのではないか,と想像しています。

また「My Fair Lady」のタイトルは「Mayfair Ladyメイフェア・レディ)」をコックニー訛りで発音して「マイフェア・レディ」とした,という裏話があります。
メイフェアは,昔は閑静な住宅地で,今は高級店舗が並ぶロンドンの地区の名前です。

『マイ・フェア・レディ』では名曲がいろいろあり,

●” Wouldn’t It Be Lovely “「素敵じゃない?
●” With a Little Bit of Luck “「運がよけりゃ」
●” I Could Have Danced All Night “「踊りあかそう
●” On the Street Where You Live”「君住む街角」
●” Get Me to the Church on Time“「時間通りに教会へ

今回は,マイ・フェア・レディの代表曲といっていい,この歌にしましょう。

I Could Have Danced All Night “『踊りあかそう
作詞・アラン・ジェイ・ラーナー(Alan Joy Lerner)
作曲・フレデリック・ロウ(Frederick Loewe)
歌唱・マーニ・ニクソン(Marni Nixon)

Bed! Bed! I couldn’t go to bed!
My head’s too light to try to set it down!
Sleep! Sleep! I couldn’t sleep tonight!
Not for all the jewels in the crown!

I could have danced all night
I could have danced all night
And still have begged for more
I could have spread my wings
And done a thousand things
I’ve never done before

I’ll never know what made it so exciting
Why all at once my heart took flight

I only know when he began to dance with me
I could have danced, danced, danced, All night!

ベッド!ベッド!ベッドになんて行けないわ!
頭が冴えすぎているわ
このまま落ち着けようなんて無理なの!
寝る!寝る!今夜は眠れないわ!
この冠の宝石たちのせいじゃないのよ!

一晩中だって踊れたわ
一晩中だって踊れたのよ
さらにそれ以上をお願いできるぐらいだったの
翼を広げることすらできたかもね
そして1000の事をやっていたかも
今までやったことのない事を

決して知りえないでしょうね
何がこれほど興奮させるのかなんて
どうして全てが突然に 私の心は飛び立ったの

分かることは,彼が私とダンスを始めた時だけ
踊れるわ 踊る,踊る 一晩中だってね!

前述の「スペインの雨」を真夜中3時までヘトヘトニなるまで練習して,やっと「エイ」が発音できるようになって,喜んだ3人(イライザ,ヒギンズ,ピカリング)が興奮して踊り出すシーンがあって後にこの歌になります。
一晩中でも踊っていたい,という高揚感は,聴いているこちらもウキウキしますね。

この作品の登場人物で,イライザの父で飲んだくれのドゥーリトルを舞台と映画の両方で演じたスタンリー・ホロウェイが,歌も踊りも演技も出色でした。「運がよけりゃ」や「時間通りに教会へ」など,観ていて聴いていて,こちらもつられて踊り出しそうになります。

時は新緑あふれる5月,何をするにも良い季節です。
7月に勝るとも劣らない強力な紫外線による日焼けには気を付けて,大いに楽しんでください。