競うこと

「人生は競争だ」という台詞(せりふ)はよく聞きますね。そうではない,と否定する人もいますが,競争にさらされているのは事実です。
競うことで成長するということも確かにあるでしょう。

そのせいか,テレビでも,競い合いを見せる番組が大流行です。
プレバト!!」(これはプレッシャー・バトルの略?,精神的な圧迫の中で競争させる,意か),いろいろの競争対象がある中,「俳句の才能査定ランキング」というのが面白いんです。選者というか批評家というか,夏井いつき(1957-)という先生が,名前を伏せた人たちの作った俳句を査定してランキングするんですが,その辛口というか,毒舌というか,辛辣というか,なにしろその表現が半端ないんです。よくぞあれだけボロクソに言えるな,というくらい上手にケナスんです。まあ,それが売り物で,番組も好調で,著作本も売れ,「俳句の普及に貢献した」ということで表彰もされているそうです。

THEカラオケ☆バトル」というカラオケマシンで歌唱を採点する番組も人気です。この機械は第一興商(DAM)の製品ですが,音程正確率・表現力・リズムなど多項目で評価しているようです。
このマシンのだす評価がけっこう的確で,私個人の思う評価と近いので,採点結果に納得してしまうのです。 

人間が評価するとき,客観は無理で,主観的にならざるを得ません。つまり好き嫌いが必ず結果に反映されるということです。
コンクールなどで,審査員達の評価が併記されていたりしますが,個々で評価が全く違ったりしています。これでは採点される方はたまったものではありません。参加者の皆さんは納得されているんでしょうかね。
これがコンクールに対する基本的な不信感です。芸術に簡単に優劣がつけられるのか,という本質的な疑問です。

同じような番組ですが「関ジャニの仕分け∞」の中で,ピアノ演奏を競うものがあります。これは,ミスタッチの数を数えて少ない方が勝ち,という単純なものです。
しかし,これは明らかに邪道です。

もちろん,ミスタッチはないに越したことはありませんが,実際のピアノ演奏会では,奏者のミスタッチは必ずといっていいほど発生しますが,それだけで演奏の出来を評価できません。少々のミスがあっても,感動を与える良い演奏というものはあるわけで,それが生の魅力でもあるのです。
ミスのない演奏を聴きたいなら,CDを聴けばよいのです。

さらに,「芸能人格付けチェック」という,番組名からして変なのもあります。味覚・視覚・聴覚などの判断を求めるもので,結果によって,一流・二流・三流などと勝手に格付けされるというおかしな内容です。
面白くもない似たような番組が並ぶ正月に,よく放映されていて,しかたなく見ていましたが,この秋に,音楽に特化してやっていました。

楽器演奏をして,楽器の値段が高い方を当てる,というものがあり,市場価格18億円のストラディバリウスと20万円のバイオリンでは,さすがに音色に差がでました。

しかし,プロフェッショナルとアマチュアとの演奏比べには,大いに疑問が残りました。
ニューヨークの名門音楽大学などで学び,数々の賞を受賞している世界的なソプラノ歌手と称する人と,アマチュアの歌手がオペラのアリアを歌い比べました。
すると,全員(6人でしたか)がこれこそプロと判断した人が,実はアマチュア歌手の方だったのです。私も聴いていて,プロという人は,あきらかに音程がぶら下がり(その音に達してない,低い)聴きづらかったのです。
アマの人の方が上手いと全員が判断したので,その結果は正しいのです。
司会者は,みなさん全員,耳鼻科に行ってください,と笑ってごまかしましたが,これは明らかに制作側のミスです。その程度の歌手を,肩書だけで連れてきたのが失敗でした。

スポーツの世界で,時間や距離で結果を判定する競技には,誰もが納得して,勝者を称賛します。
しかし,技術点と芸術点で審判員が採点する競技は,いつも疑問が残ります。

フィギュアスケート,体操,シンクロナイズドスイミングなど,いやこれは最近アーティスティックスイミングと名称を変えました。これは芸術的な面を強調することで,余計に判定評価を難しくしたのではありませんかね。

フィギュアスケートの伊藤みどり(1969-)は1992年のアルベールビルオリンピックで,トリプルアクセル(3回軒半)を世界で初めて飛びましたが,銀メダルに終わりました。身長が145cmしかなく,脚もO脚ぎみという,典型的な昔ながらの日本人体型で,技術点が高くても芸術点が低いという,損な対応を受けました。

また,空手組手という種目があり,では審判が採点します。見ていると選手の気合に圧倒されますが,空手という実践的な武道が,点数化して評価することには違和感があります。

かつて,嘉納治五郎(1860-1938)が明治期に柔道を創設し,それまでの柔術が型を重視していたのを,実践的な乱捕りで練習することで競技力を高め,柔術を駆逐した経緯があります。

たとえば,美人コンテスト(beauty contest)などは,生まれつきの容姿だけで判定されるきらいがあるので,批判の対象となっていましたが,今は逆に,表面的な美醜をことさら言いたてる情けない世の中になってきているようです。

今回の歌は季節がら『故郷の空』にしましょう。

故郷の空
大和田建樹・作詞 スコットランド民謡(1888)明治唱歌(1)

夕空晴れて 秋風吹き
月影落ちて 鈴虫鳴く
思えば遠し 故郷の空
ああ わが父母 いかにおわす

澄みゆく水に 秋萩垂れ
玉なす露は ススキに満つ
思えば似たり 故郷の野辺
ああ わが弟妹 (はらから)  たれと遊ぶ

原曲はスコットランド民謡 ”Comin’ Thro’ the Rye” (ライ麦畑で出逢うとき)で,大和田建樹(1857-1910)が歌詞をつけました。ザ・ドリフターズで有名になった「誰かさんと誰かさんが麦ばたで…」の歌詞は,なかにし礼(1938-)の作詞で,むしろ原曲に近いとされています。

これからは秋本番。ということは冬に向かう寒い日と,「小春日和(こはるびより)」といわれるような暖かい日があったりしますから,気象予報には注意して,風邪など引かないように,元気にお過ごしください。