使い回し

使い回し」とは

1.工夫してさまざまにつかうこと
2.さんざんに使うこと,酷使すること
3.同じものをくりかえし使うこと

などの意味に使いますが,一般にはあまり良い意味で使わないようです。

しかし,エコロジー(ecology,生態学,環境保護)の観点からは,まだ使えるものを使い回すことは決して間違ってはいません。

でも,最近のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)はちょっと使い回しがひどい状態ですね。

現在放送中の2016前期「とと姉ちゃん」のヒロイン(heroine,女主人公)高畑充希(みつき,1991-)は,2013後期の「ごちそうさん」でヒロイン・の義妹役でした。

ちなみに,現代の欧米では,性差別(gender discrimination)の観点から,女性だけを表す言葉であるヒロインは使わず,男女の区別なくヒーロー(hero)を使うことになっています。

2016後期は「べっぴんさん」に決まりましたが,主人公に抜擢されたのは,民放で「表参道高校合唱部」(2015.7-9)で主演した芳根京子(1997-)です。

2015前期の「まれ」は,2014前期の「花子とアン」で主人公・吉高由里子の妹役・土屋太鳳(たお,1995-)でした。

まあ,適役であればなんでも良いんでしょうが,余りにも短期間に,いまや自社NHKに限らず他局にまで手を伸ばし,評判になった若手女優の使い回しが目立ちます。
このぶんで行くと,好評で終わった前作「あさがきた」で好演した,主人公・波留の娘・千代役の小芝風花(1997-)か,亀助の幼妻になった元女中ふゆ役の清原果耶(2002-)あたりが,次々作あたりで再登場する可能性が高いのではないでしょうか。

さて,現在の放送に戻って,ヒロイン・小橋常子のモデルは,大橋鎭子(しずこ,1920-2013)さんです。
東京の深川で大橋武雄・久子の長女として生まれ,次女・晴子,三女・芳子の三姉妹,父親を早くに亡くし,小学5年生で喪主を努めました。

1948年,雑誌『暮しの手帖』は,花森安治を編集長に,鎭子(社長)さんが創刊しました。広告を一切排除し,衣食住をテーマにした紙面づくりで,独自の商品テストでは,当時めずらしく,実名をあげて結果を公表し,評判をとりました。

花森安治(1911-78)は,神戸市須磨区に生まれ,6人兄弟の長男,旧制松江高校,東大文学部美学美術史学科卒,太平洋戦争に召集され疾病により除隊,その後敗戦まで,大政翼賛会の外郭団体で国策広告に携わり,このことが生涯の反骨精神のもとになっていました。おかっば頭の奇抜な格好も印象的でした。
暮しの手帳』の創刊号から52号(死の直前)まで,表紙画はすべて花森の手によるものです。
朝ドラでは花山伊佐次として唐沢寿明が演じることになっています。

暮しの手帖』の記事の中で今でも鮮明に思い出すのは,まだ日本が貧しく,食料がそれほど潤沢ではなかったころ,「ダイエット(diet)」という言葉があって,アメリカでは重要な社会問題になっているという記事を目にした時でした。アメリカは豊かな国の代名詞で,それが行き過ぎて,国民が過食による肥満で悩んでいるという,なんとも退廃的な記事でした。
メイド・イン・ジャパン」が安物・粗悪品の代名詞だったころの話です。

いまや日本もりっぱ(?)にアメリカの後に続き,ダイエットに狂じる時代となってしまいました。
そして,メイド・イン・ジャパンは  Made in China に後釜を譲り渡しました。

当時の歌にこんなのがありました。

最初(はじめ)の男は 印度に渡る
仏陀の石鉢 天然記念物
ぴかぴか光らず 真黒なので
よくよく見たらば メイド・イン・ジャパン
泣く 泣く かぐや姫
月の出を見て 泣きじゃくる

 

かぐや姫』作詞・作曲:三木鶏郎,歌:河井坊茶(1955.9)「ABCホームソング」の初期の1曲です。
冗談音楽の祖・三木トリローの歌詞も旋律も独特で,河井坊茶の歌も絶妙で,今聴いても新鮮で,決して色褪せていません。

ところで,毎日新聞の夕刊の「憂楽帳」というコラムに,こういう記事(2016.4.26)があったので,再録します。

1936年春の横浜。1人の女が北米航路の船から下り立った。18年ぶりの帰国だ。話を聞こうという記者に,女は逆に尋ねた。1ヵ月余り前の「2・26事件の当時,東京市民はどうしていたか」。
「一旦は驚かされたようだが,平生の通りどこの娯楽場もにぎやか」だったと話す記者に,女は市民の「無関心」の理由を問う。「考えたってしかたがないというあきらめから来ている」という説明に,女は「考えたって仕方がないという時代は暗黒を思わせる」と記す。

大正期の人気作家,田村俊子が帰国後に雑誌へ寄せた随筆の一場面だ。近代最大のクーデター未遂事件への無関心の陰に「暗黒」を見通した俊子は,9年後の敗戦まで予感していたのだろうか。
(後略)

 極めて興味深い記事です。同じような過ちを繰り返さないために,歴史を知ることは大切です。

国境なき記者団」(本部・パリ)による世界の報道の自由度ランキングが発表され,今年2016年,日本はなんと72位でした。
2010,民主党政権下では11位でした。
2015,自民党政権下では61位に落ちました。

この大暴落を黙って見ていてはいけません。それだけ自由度が奪われている,知る権利が侵されている,ということなのです。

4.19,国連人権理事会が任命した特別報告者(表現の自由担当)デビット・ケイ米カリフォルニア大学アーバン校教授が訪日を終え,

「日本の報道機関の独立性が深刻な脅威にされされいる」として放送法特定秘密保護法の改正を求めました。

放送事業者に「政治的公平性」を求めた放送法第4条の規定に,高市早苗総務相が,放送局の電波停止に,繰り返し言及した問題について,「大いに懸念を抱いている,4条を廃止すべきだ」と述べました。
ケイ教授はなんども高市総務相に面会を求めたのに,彼女は拒否し,結局,一度も会いませんでした。

最近,「平和憲法であるワイマール憲法下でなぜナチス独裁が実現したか」という過去に何度も議論された問題をテレビでも放映していました。

それは,第1次大戦後に敗戦国ドイツが賠償問題で大いに苦しんでいた時期に,選挙で国民の不満を吸い上げたナチス党が第1党になり,憲法下で認めていた,危機に際して「緊急命令発布権」を悪用して,絶対権力を掌握したのでした。

安倍政権は憲法改正の争点に,「緊急事態条項」を新設することをもくろんでいます。
これは戦争や内乱,大規模災害などが起こったとき,国家が非常措置を取る権限を定めたものです。国を維持するため,憲法が保障する人権や三権分立を一時的に停止し,「国家緊急権」を条文化するものです。

さきほどのワイマール憲法の「緊急命令発布権」と同様の危険性を感じませんか?

独裁」につながる可能性のある項目を安易に認めては,今後,どのような災難が国民に降りかかってくるか,よくよく考えなければなりません。
取り越し苦労,と安易に構えていては,取り返しのつかないことになりかねません。

80年前,田村俊子さんが危惧したような状況に,再びおちいらないよう,われわれもしっかりと政治の行先を監視して行かなければいけません。

この季節,フランスのことわざに

4月には糸一本も脱いではいけない。
5月になったら好きなように。

というのがあります。確かにヨーヨッパの春は遅いのです。
日本の4月は春本番です。
しかし,天気の良い日と雨の日,あるいは風の強い日では,気温も湿度も体感も違ってきますから,気温変動には十分に気を付けて,それに合った服装で,元気にお過ごしください。