歴史に学ぶ

時代劇,けっこう好きです。
しかし,最近の立ち回り(チャンバラ・シーン)はやけに派手ですが,役者の腰が据わっていなくて,緊迫感が伝わってこないのが残念です。

好ましいと思うところは,立ち居振る舞いや言葉づかいです。
長幼の序(大人と子供,年上と年下の秩序)をわきまえて敬語が適切に使われているのが良いですね。
分りやすい,との配慮からか,「ありがとう」とか「すみません」などの現代語が使われると,興ざめで見る気をなくします。

歴史小説時代小説も好きです。
この区別として,歴史小説は,歴史上に実在した人物が大筋は史実に基づいて進行しますが,時代小説は,架空の人物か実在の実物でも史実とは異なった自由な展開をするものです。

現在,NHKの大河ドラマでは「花燃ゆ」で,吉田松陰の妹・(ふみ)を主人公にした歴史ドラマですが,視聴率が芳しくないらしく,主役の井上真央が謝罪するというおかしな展開になっています。
不人気とすれば,それは役者のせいではなくて,おもに脚本プロデューサー(製作者)のせいです。
激動の時代を,今までとは違った角度で描いていて,私は興味深く見ています。

たとえば,
池波正太郎鬼平犯科帳』の長谷川平蔵は,これまで4人の役者が演じています。

松本幸四郎  69.10-70.12,71.10-72.3
丹波哲郎   75.4-75.9
萬屋錦之助  80.4-82.10
中村吉右衛門 89.7-

まったくの独断ですが,圧倒的に吉右衛門の平蔵がおもしろいですね。
密偵の一人一人まで登場人物の性格描写がていねいです。
とくに相模の彦十役は,江戸家猫八(21-01)をおいて,他に人なし,の感があります。
ちなみに長谷川平蔵は実在の火付盗賊改方の長官ですが,これは歴史小説とはいわず,池波が創作した時代小説です。

幕末以後の日本の歴史を「近代史」といいますが,歴史として学校ではあまり教えないですね。

岸信介(96-87)は安倍晋三首相の母方の祖父です。
昭和の妖怪」と言われた人です。

弐キ参スケ(2き3すけ)」と称された満州国(32-45)に影響を与えた軍・財・官の5人の1人です。
また,鮎川・岸・松岡は満洲三角同盟とも言われました。
5人全員が,第二次世界大戦後にA級戦犯の容疑者として逮捕され,東京裁判で右の判決が出ました。

東條英樹(ひでキ) 関東軍参謀長    死刑
星野直樹(なおキ) 国務院総務長官   終身刑(後に釈放) 鮎川義介(よしスケ)満洲重工業開発・社長 不起訴
岸信介 (のぶスケ)総務庁次長     不起訴
松岡洋右(ようスケ)満鉄・総裁     公判中に病死

岸信介は元A級戦犯でありながら総理大臣(57-60)になり,日米安保条約の改定をめぐって,国民的な反対にあい,条約批准後に混乱の責任を取って退任します。
90歳で死去しますが,晩年まで政界に影響力を行使しました。

安倍晋太郎(24-91)は毎日新聞社に勤務後,政治家に転身,岸の長女・洋子と結婚し,ニューリーダーと称されますが,自民党総裁になる直前に,すい臓ガンになり,67歳で病没します。

晋太郎の次男・晋三は,温和な父よりも大物であった祖父の影響を強く意識しており,「自主憲法」の制定に意欲を示しています。

平和」維持のための武力行使,という矛盾する旗印で,平和憲法をないがしろにしようとしています。

アドルフ・ヒトラー(89-45)は独裁者といわれていますが,最初から権力を持っていたわけではなくて,むしろ24歳くらいまでは無能で学校へも順応できず(卒業は小学校のみ),徐々にのし上がって独裁者の地位を確保しました。
もっと早い段階で,ヒトラーの異常さに気が付いて,ストップをかけていたら,あんな悲惨な悲劇は起こらなかったのです。

とくに権力を持った人の異常行動は細大漏らさずに監視して,おかしな方法へ向かわないようにすべきなのです。

集団的自衛権の拡大や,原子力発電の縮小を口では唱えながら実質推進している不安状況は,見過ごしてはならない,危険サインです。

ところで,
立春(今年は2月4日)から数えて88日目は八十八夜(5月2日)といって,播種(はしゅ,たねまき)の適期とされ,茶どころでは茶摘みの最盛期となります。

また,
この時季はゴールデン・ウィーク(GW,和製英語)と呼ばれ,5月4日が「みどりの日」(2007年から,それまでは4月29日)が祝日になったので,4月29日の「昭和の日」から5月5日の「こどもの日」さらに5月3日の「憲法記念日」の振替えで5月6日までをGWといいます。
なにしろ,年間15日の国民の祝日のうち,じつに4日間もここに集中しているのですから,楽しんでください。

そして「憲法記念日」には,平和憲法の主旨を改めて考えてみましょう。

この時季の歌は,子供の日にちなんで,この曲にしましょう。


背くらべ海野厚・作詞 中山晋平・作曲(1919)

柱のきずは おととしの
五月五日の 背くらべ
ちまきたべたべ 兄さんが
計ってくれた 背のたけ
きのうくらべりゃ 何のこと
やっと羽織の 紐のたけ

柱にもたれりゃ すぐ見える
遠いお山も 背くらべ
雲の上まで 顔だして
でんでに背伸び していても
雪の帽子を ぬいでさえ
一はやっぱり 富士の山

海野厚(96-25)静岡県出身,童作詞家・俳人,本名:厚一,代表作は「おもちゃのマーチ」(小田島樹人・曲)など。

中山晋平(87-52)長野県出身の作曲家,童謡・流行歌・新民謡など多くの作品があり,代表作は「砂山(北原白秋・詞)」「船頭小唄(野口雨情・詞)」「波浮の港(野口雨情・詞)」「東京行進曲(西条八十・詞)」など多数。

この時季はとても過ごしやすい頃です。
しかし,紫外線はすでに強いですから注意して外出しましょう。
花粉の飛散は少なくなってきましたが,花粉症が楽になってきたら,ぜひ「舌下免疫療法」を試して,少しでも楽になる方向に進んでください。

ワーグナーの世界

ドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner,1813-1883)について,今更ながら考えてみます。
音楽の専門家には,原音に近い,ヴァーグナーとかたくなに表記する人がいますが,ここでは一般的なワーグナーと表します。

ワーグナーの音楽は,壮大で,きらびやかで,それまでの歌劇を総合芸術としてまとめあげ,「楽劇」と称されています。

また,自分の作品を上演するために,バイロイト祝祭劇場を建設(1876)しました。
祝祭劇場の運営は,その後,子孫たちが引継いでいますが,身内の内部対立も激しく,私物化,商業主義との批判もあり,出演を拒む演奏家も少なくありません。

ワグネリアンと称する,ワーグナーの音楽に心酔する人々がいる一方,拒絶する人々もたくさんいるのです。
それは,ワーグナー自身が,自信家で独善的で排他的で,反ユダヤ思想の持ち主で,ユダヤ系のメンデルスゾーン(09-49)の音楽を非難し,生存中から賛否を二分していました。

リスト(11-86,ピアニスト・作曲家)の娘コジマ(37-30)は夫ハンス・フォン・ビューロー(30-94)がいる身でワグナーの子を産み,ビューローは激しく対立するブラームス(33-97)派に加わります。
ちなみに,ビューローは初めての専門指揮者で,それまでは作曲者がみずから指揮をしました。

じつは,私が初めて生のオペラを見たのは,1970年,ベルリン・ドイツオペラ日本公演,ロリン・マゼール(30-14)指揮『ローエングリン』(1848)でした。
とくに印象に残ったのは,第3幕前のきらびやかな前奏曲に引き続いて演奏される『婚礼の合唱』でした。自分のときはこれでやるぞ,と思ったものでした。

ところで,結婚式につきものの音楽は,メンデルスゾーンの『夏の夜の夢』(1842)のなかの『結婚行進曲』が,ワーグナーの「婚礼の合唱」と二分しており,『行進曲』はより華やかで,『合唱』はむしろ荘重な感じがします。
披露宴の入場はメンデルスゾーンで,退場はワーグナーで,というのが定番のようで,150年を経て,並んで使われています。

ワーグナーの作品の中でもっとも長大なものは『ニーベルングの指輪』(48-74)4部作で,完成に26年間もかかり,通称,指輪(リング)と呼ばれています。

  • 序夜『ラインの黄金』 (Das Rheingold )     2時間40分
  • 第1夜『ワルキューレ』 (Die Walküre )      3時間50分
  • 第2夜『ジークフリート』 (Siegfried )     4時間
  • 第3夜『神々のたそがれ』 (Götterdämmerung ) 4時間30分
    上演時間合計                 15時間

ヒロインのブリュンヒルデは全神ヴォータンの長女でワルキューレ(女戦士,英雄をワルハラ城に導く役)ですが,英雄ジークフリートと結ばれます。
なんと,あのアニメ『崖の上のポニョ』のポニョの本名がブリュンヒルデになっています。

私は『ラインの黄金』だけは生で見たことがあります(すべて日本人の公演)。

ワーグナーの不幸は,反ユダヤで一致したヒトラー(89-45)が熱狂的なワグネリアンだったことです。
大衆を洗脳するために,ワーグナーの高揚させる音楽を集団催眠に利用しました。
たとえば,ナチスの党大会で『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第1幕への前奏曲が演奏されたりしました。

第二次世界大戦の末期,ユダヤ人の少女がバイオリンが弾けるということで,アウシュヴィッツ行きを免れました。
最近,その音楽家がワグネリアンのユダヤ人と対談をしました。彼女はとてもワーグナーの音楽を受け入れることはできないと断言しました。

今でも,イスラエルではワーグナーの音楽を演奏することはタブー(厳しく禁止される行為)とされています。
100年後には,このトラウマ(強烈で心に大きな痛手を与えるような体験,それが長期の不安状態を引起す原因となる心的外傷)から脱却できるのでしょうか。

日本にも,ワーグナーを信奉する人たちがいます。
慶應義塾大学ではワグネル・ソサィエティーという名の団体が,オーケストラ,男声合唱団,女声合唱団の3つあります。

その慶応ワグネル・ソサィエティー男声合唱団出身のカルテット(四重唱団)がダークダックスです。1951年に結成。
メンバーは全員が経済学部の出で,

高見澤宏(33-11)トップ・テナー,愛称パク,11年に死去 佐々木通正(32-)セカンド・テナー,愛称マンガ
喜早 哲(30-)バリトン,愛称ゲタ,リーダー
遠山 一(30-)ベース(バス)本名:金井哲夫(現在は改名し金井政幸),愛称ゾウ,東京藝大中退

ロシア民謡,山の歌,唱歌など幅広いジャンルの楽曲をレパートリーとしており,さらに清水脩・作曲『山に祈る』男声合唱組曲などの初演も行っており,多くの音楽シーンでの先駆者的な活動をしてきました。
1997年に佐々木が倒れ,3人のアヒルとして活動,2011年に高見澤が死去後はほとんど活動休止状態。

同時代に,デューク・エイセス,ボニージャックスの男声カルテットがいました。

デューク・エイセスは1955年結成,当初はジャズ・黒人霊歌に特化し,永六輔・詞  いずみたく・曲「にほんのうた」シリーズもレパートリーです。メンバーを入替えて継続し,トップ・テナーはなんと5人目です。ユニゾン(斉唱)と重厚なハーモニーが特長でしたが,これだけメンバーが入替ると同じ響きを保つのは難しいです。

ボニージャックスは早稲田大学グリークラブ出身で1958年結成,レパートリーは多彩です。ロシア民謡「一週間」や合唱曲「遥かな友に」,童謡「ちいさい秋みつけた」「手のひらを太陽に」などは,ボニーが歌ったことから広く知られるようになりました。

今回はダークダックスで有名になったこの曲にしましょうか。

ロシア民謡『ともしび』楽団カチューシャ・訳詞

夜霧の彼方へ 別れを告げ
雄々しきますらお いででゆく
窓辺にまたたく ともしびに
つきせぬ乙女の 愛のかげ

戦いに結ぶ 誓いの友
されど忘れ得ぬ 心のまち
思い出の姿 今も胸に
いとしの乙女よ 祖国の灯よ

やさしき乙女の 清き思い
海山はるかに へだつとも
二つの心に 赤くもゆる
こがねの灯 とわに消えず

変らぬ誓いを 胸にひめて
祖国の灯のため 闘わん
若きますらおの 赤くもゆる
こがねの灯 とわに消えず

ロシア語の歌詞を見ましたが,「海山はるかに」とかの言葉は出てきません。だいたいロシアには海はほとんど存在しませんので,「山河」になっているのもありますが,かなり意訳になっていると思います。

かつて大学の男声合唱団(グリークラブ)出身の男声カルテットが活躍しましたが,声には活動寿命があり,現在では残念ながら衰退気味です。

かれらの音楽は,米国のミルス・ブラザーズゴールデン・ゲイト・カルテットに代表されるジャズボーカルグループを原点としていますが,一方,19世紀後半の米国では,男が床屋(barber)に集まって無伴奏のカルテットを楽しむのが流行し「バーバーショップ・ハーモニー」と呼ばれる独自のスタイルを築いて,現在も素人(別に仕事を持っている人たち)グループでも質の高い演奏を保っていて,ときどき日本でも公演を行っています。

いまの日本では,アカペラ(無伴奏の合唱)グループが流行ってきており,人数も演奏方法も多彩で,ハーモニーを楽しむ感があって,良いのではありませんか。

今春は,花の季節,気候が不順で,雨が多く,気温変動も大きいく,冬物・春物の衣装選択も日替わりで,気象情報にはくれぐれも注意してお過ごしください。

青春とは

むかし,「青春とはなんだ」というTVの学園ドラマ(65-66)がありました。
夏木陽介の主演,石原慎太郎の原作,主題歌・挿入歌は岩谷時子・詞,いずみたく・曲,布施明・歌で,ラグビーを通じて心の交流や人間教育を実現してゆくという,よくあるパターンのドラマでした。これは,その後「これが青春だ」「でっかい太陽」「燃えろ!太陽」とシリーズ化してゆきます。

このような場合,ラグビーという競技はまことに都合がよく,泥んこになって乱闘するという,極めて分りやすいシーンが展開できますから。

ラグビーの精神として

One for all,  All for one
(一人は皆のために,皆は一人のために)

がよく言われていますが,それは日本だけのことで,
もともとはアレキサンドル・デュマ(大デュマ)の『三銃士』(1844)のなかで三銃士が剣をあわせて誓う言葉として登場しました。(原典 un pour tous, tous pour un“)

ところで,四季と方位には四神と色が割り当てられており,

春  東  青竜  青
夏  南  朱雀  朱(赤)
秋  西  白虎  白
冬  北  玄武  玄(黒)

つまり,青春朱夏白秋玄冬というわけです。

さて,日本の三大青春文学,純愛小説というべき作品は

伊藤佐千夫野菊の墓』(1906)
15歳の少年・斎藤政夫と2歳年上の従姉・民子との淡い恋を描きます。夏目漱石より「自然で,淡泊で,可哀想で,美しくて,野趣があって(中略)あんな小説ならば何百編よんでもよろしい」との評価を受けます。
民さんは野菊のような人だ。僕は野菊が大好き」という政夫のセリフは絶妙です。

川端康成伊豆の踊子』(1926)
19歳の川端が伊豆に旅した時の実体験を元にしている短編です。孤独や憂鬱な気分から逃れるために伊豆へ一人旅に出た青年が,旅芸人一座と道連れとなり,踊子の少女に淡い恋心を抱く旅情と哀歓の物語。孤児根性に歪んでいた青年の自我の悩みや感傷が,素朴で清純無垢な踊子の心によって解きほぐされていく過程と,彼女との悲しい別れまでが描かれています。

三島由紀夫潮騒』(1954)
伊勢湾に浮かぶ歌島(神島)を舞台に,若く純朴な漁夫・久保新治と海女・初江が,いくつもの障害や困難を乗り越え,恋愛が成就するまでを描いた物語。
雨の降る休漁日に初江と待ち合わせの約束をした新治は,先に到着し,初江を待っていたが,焚き火に暖められるうちに眠ってしまう。ふと目が覚めて気が付くと,初江が肌着を脱いで乾かしているのが見えた。裸を見られた初江は,新治にも裸になるように言う。裸になった新治に,さらに「その火を飛び越して来い。その火を飛び越してきたら」と言った。火を飛び越した新治と初江は裸のまま抱き合うが,初江の「今はいかん。私,あんたの嫁さんになることに決めたもの」という誓いと,新治の道徳に対する敬虔さから二人は衝動を抑えた。
よく登場するシーンですが,今はこういう風にはいきません。

いま読み返しても,甘酸っぱい青春時代の思い出がよみがえるようです。
これらは,それぞれの時代のアイドルたちによって何度も映画化されています。

4月1日は入学式の日です。
今回の歌はこの楽しい曲にしましょうか。

一ねんせいになったらまどみちお・作詞 山本直純・作曲

一ねんせいに なったら
一ねんせいに なったら
ともだち ひゃくにん できるかな
ひゃくにんで たべたいな
ふじさんのうえで おにぎりを
ぱっくん ぱっくん ぱっくんと

一ねんせいに なったら
一ねんせいに なったら
ともだち ひゃくにん できるかな
ひゃくにんで かけたいな
にっぽんじゅうを ひとまわり
どっしん どっしん どっしんと

一ねんせいに なったら
一ねんせいに なったら
 ともだち ひゃくにん できるかな
ひゃくにんで わらいたい
せかいじゅうを ふるわせて
わっはは わっはは わっはっは

まどさんについては,下記に詳しく述べています。
2014年5月29日付「まどさんを偲ぶ」
をクリックしてみてください。

どうです,春にふさわしい,とても楽しい歌でしょう。
やはり入学式は桜のしたで,春にかぎります。