我が家の愛猫が亡くなりました。享年14歳でした。
思い起こせば出会いのときから少し不思議な猫でした。
秋も深まった風の強い夜,勝手口から猫の声がしました。戸口で子猫が鳴いています。どこから来たのか,勝手口には外戸があり,下からは潜り込む余地がなく,成猫なら外壁を乗り越えて入ってくることは可能ですが,まだそれほど大きくない子猫です。そしてまだ我が家の飼い猫でもないのに,中へ入れてくれと鳴くのはおかしいです。そのとき我が家には既に飼い猫が2匹いました。でも鳴き続け,網戸をよじ登ってきました。風の強い寒い夜だったので,外で死なれても困ると思い,仕方なく中へ入れました。
それがこの猫との不思議な出会いです。大きな雄の先住猫がいたので,襲われてもいけないと思い,私のベッドの端で一夜を共にしました。
ところが次の日から,ずっと前からいるように1脚の椅子を占領してくつろいでいました。大風に乗ってやってきた,風の又三郎のような猫でした。
写真は来た当時のものです.(2008.10.21撮影)
その後,先輩の大きな雄猫を追い回すようになりました。本人はただジャレて遊びたいだけだったのでしょうが,先輩猫は嫌がってフーと吹いていました。
犬のようなところがある猫でした。
エサをガツガツと犬のように残さずに食べました。おかげですくすくと大きく成長し,ついに肥満猫になってしまいました。
医者から,元気な猫なので20歳くらいは生きられるから体重だけは減らしてください,と言われ,医者の指導通りのダイエット・レシピを与え,エサくれの鳴き声も心を鬼にして無視し,最大8.7kgから6.2kgくらいまで2.5kgの減量に成功しました。人間でいえば,87kgが62kgまで減らしたことになります。元のスマートな猫に戻りました。しかし,大きな猫ではありました。
2階から階段をドシドシと音を立てて犬のように勢いよく降りてきて,ついでに体ごとこちらにぶつかってきました。
帰宅したとき,玄関で出迎えてくれました。でも犬と違うところはベタベタせず,頭をなでると,そのままスッと部屋に戻りました。
とても腕力のある猫でした。我が家で一か所だけある,人でも開けるのが大変な重い木製のガラスの引き戸を,独りで開けました。
雄猫なので外に出たがりました。
外に出ると,ケンカしてケガして帰ってくることがあるし,以前飼っていた雄猫も戻ってこなかったりしたり,医者からも家中で育てることを勧められたので,外に出さないようにしていました。
本人は出たくて出たくて仕方がなくて,網戸を破っても外へ出ました。丈夫なステンレス製に代えたときも,その日のうちに破られました。
冬,椅子に座って足台に脚を伸ばしていると,その上に載ってきて,お尻をこちらに頭を向うに,前足と後ろ脚をこれでもかという位に伸ばし,ナガーくなって,ズッシリとかなり重かったです。
その足台が空いているときはその上に載ってきて丸くなりました。両手で顔の横を撫でてやると,グルグルグルと喉を鳴らし,本人も満足している様子で,こちらも同時に癒されました。
猫のトイレは1階の人間のトイレの便器の横に置いていました。こちらが用を足していると入ってきて,男同士,ツレションでした。むこうは終わると砂を何度も何度もかけて,臭って,かけて臭って,臭気が無くなったことを十分に確認していました。その様子を観察しているだけで楽しかったです。
歩き方が上品でした。こちらが立っていたり,椅子に座っていたりすると,音もなくやってきて,しっぽで触れるか触れないかほどに繊細に脚の内側をスッと撫でて,「来たよ」と通り過ぎました。
深夜に台所で皿洗いをしていると,終るまで後ろで黙って座って待っていました。それも洗い終わるころに合わせてやってきました。
終わってから,少しだけエサをやって頭を少し撫でてやると,そのまま玄関に行って,夏はドマに寝そべって,冬はゲタ箱の上に載って,ズッーと外を見つめ続けていました。
何を見ていたのでしょうか。広い外の世界を自由に飛び回りたかったのでしょうか,風の又三郎のように。
「ねむいねむいうた」 ABCホームソング 1965年3月 放送
作詞:サトウハチロー
作曲:桜井 順
歌唱:ボニージャックス
数か月前に首の横にデキモノが出来ているのを発見しました。医者に連れてゆくと,ガンの宣告 ‼ しかも,手術ができない箇所だと告げられました。
一時,抗がん剤が効いたのか,デキモノが小さくなって来たと少し希望が見えたように思っていたのに,数日前から,エサを食べずに動かなくなってきました。どこにおいても勝手に移動し,風呂場の片隅に横たわるようになりました。
以前同居していた先住猫達は数年前の暑い夏の日に相次いで眠るように亡くなりました。
この猫は,元気で体力があったせいでしょう,食べなくなって動かなくなってから数日間耐え,ついに亡くなりました。
部屋の戸を開け放すと,空間が広がり涼風が通り抜けましたが,寂寥感も広がりました。
トイレの猫の砂を片付けると,さほど広くもないトイレが広く感じました。
先日,いつものように深夜に皿洗いをしていると,後に気配を感じ,振り返りましたが,誰もおらず,錯覚か,とも思いましたが,いや気持ちだけはここに残っていて,あいさつに来てくれていたのかもしれません。
2008年10月20日ころから2022年7月19日21時ころまで,13年と9か月,一緒に暮らしてくれて,たくさん思い出をくれてありがとう。面白いヤツでした。安らかに眠ってください。
合掌。