年末恒例のコンサートといえば,
ベートーヴェン『交響曲第9番』(通常『第九』と略)ですね。
この発端は,
戦後の1940年代後半,オーケストラの収入が少なく,楽団員が年末年始の生活に困る状況を改善するため,演奏参加者が多くて,「必ず客が入る曲目」であった『第九』を日本交響楽団(現NHK交響楽団)が年末に演奏するようになり,それが定例となりました。
1956年に群馬交響楽団が行った群馬での成功が,全国に広まったきっかけとされています。
ズブの素人でも,けっこうみなさん合唱に参加されているようですが,そんなに簡単に歌えるような曲ではありません。
音域が広いし,周りの音は聞き取りにくいし,わたしが参加した公演では,隣の人は大きくハモル長音のところでは,なんど注意しても,いつも3度下を歌っておりました。
第4楽章で,すべての音が止まり,二拍おいて,バリトン歌手が ”O Freunde, nicht diese Töne!”「おお友よ,このような音ではない!」と歌い出しますが,学生時代,ボイストレーニングをお願いしていた先生は,「バリトンの名誉です」とおっしゃっていました。
1964年の東京オリンピックに東西ドイツが統一選手団を送ったときに,国家の代わりに『第九』が歌われました。
1998年の長野オリンピックの開会式では,世界5大陸・6カ国・7カ所で連携しての演奏が試みられました。
これは通信による遅れを調整するため,伴奏となる文化会館での演奏を各地に届けて合唱し,その映像が最終的にオリンピック・スタジアムで同期するように再送されました。
また,
通常のCDの録音時間が約74分であるのは,『第九』が1枚のCDに収まるように決められた,という説があります。
初演時の演奏時間は63分とされ,現代では70分前後が主流です。
ヨーロッパでは,
年末年始にオペレッタ(Operatte,喜歌劇)を楽しむ習慣があります。
オペレッタがオペラと違うところは,美男・美女が登場することでしょうか。
たとえば,ヴェルディ『椿姫』の初演で歴史的な大失敗(蝶々夫人・カルメンと共にオペラ3大失敗といわれる)をきっしますが,その原因の一つが,ヒロインのヴィオレッタが肺結核で死ぬことになっていますが,その歌手が肥満体だっため,「その体で肺結核はないやろ」と非難されたといいます。
年末には,シュトラウスⅡの『こうもり』が,年始にはレハールの『メリー・ウィドウ』が公演されるのが恒例となっています。
ヨハン・シュトラウスⅡ作曲『こうもり』(1874)の内容は,
金持ちの銀行家アイゼンシュタイン男爵は,役人を殴った罪で8日間の禁固刑になり,明朝6時には刑務所に投獄される前夜,友人のファルケ博士に誘われて「仮面舞踏会」に出かけ,そこでハンガリーの伯爵夫人に変装した妻ロザリンデに会い,妻とは気が付かず口説きだします。
ハンガリーの伯爵夫人であることを疑われれたロザリンデはハンガリー民族音楽「チャルダッシュ(csárdas)」を歌います。
刑務所長フランク,舞踏会の主宰者のロシア貴族オルロフスキー公爵,音楽教師でロザリンデの昔の恋人アルフレード,ロザリンデの小間使いアデーレなどが登場して,にぎやかに終わります。
わたしがこの作品に特別な思い入れがあるのは,
指揮の練習曲として「こうもり」序曲と「チャルダッシュ」を振った経験があるからです。
とくに「チャルダッシュ」では,全日本学生音楽コンクール2010年の声楽部門の大学・一般の部で1位になられた林佑子さんにこの歌を歌ってもらいました。
容姿端麗で美声の林さんには将来さらに活躍されることを期待しています。
この「こうもり」序曲は,フィギュアスケートの鈴木明子選手がご自身も好きということで,ソチ・オリンピックのフリー・プログラムで使いましたが,途中でウィンナ・ワルツも挟まっていて,同調するのがとても難しい曲です。
そういえば,今年末突然引退を表明した男子フィギュアスケートの町田樹(たつき)選手は『第九』をフリーに使っていました。
これは「こうもり」以上に同調するのが至難の曲です。
そんなところが「氷上の哲学者」と言われる由縁でしょうか。
年始には,フランツ・レハール作曲『メリー・ウィドウ』原題 “Die lustige Witwe”「陽気な未亡人」(1905)ですが,
舞台はパリ,ポンテヴェドロ(仮想の小国)公使館では,公使のツェータ男爵が悩みを抱えていました。それは,老富豪と結婚後わずか8日で未亡人となったハンナが,パリに居住を移したことで,もしハンナがパリの男と結婚したら,莫大な遺産が母国ポンテヴェドロから失われることとなり,国の存亡に関わるのです。
公使館の書記官ダニロを彼女と結婚させて,遺産が他国に流出するのを食い止めようとします。
実はダニロは,ハンナと過去に愛し合っていた仲でしたが,身分の違いから,結婚できなかったという経緯がありました。彼は,大金持ちとなったハンナに,いまさら結婚したいと言い出せませんし,ハンナとしても意地があるわけで,素直になることはできません。
もちろん,いろいろな恋の駆け引きがあって,最後はめでたしめでたし,となるのですが,なにしろにぎやかで,途中にオッフェンバックの「天国と地獄」 が出てきたり,「ヴィリアの歌」とか「メリー・ウィドウ・ワルツ」の馴染みのある美しいメロディーで終わります。
さらに,大みそかには,
「ジルベスター・コンサート」が開催されます。ジルベスターとはドイツ語で大晦日(Silvester,「聖ジルベスターの日」)の意味です。
日本でも生放送されていて,12月31日から演奏を開始して,1月1日の午前0時0分0秒ちょうどに演奏を完了するのを見世物にしています。
これは指揮者としての職人芸の腕を見せつける瞬間で,0時0分0秒ピッタリに曲を終了させて,同時に花火が打ちあがり,紙吹雪が舞って「新年,明けましておめでとうございます」となるのです。
2011-12年は,ラヴェルの「ボレロ」でした。
指揮者は大阪出身で女優と結婚歴(06-10)のある若手でしたが約5秒前に曲は終了してしまい,無音の恐怖の静寂状態がつづくなか,年マタギのときに,紙吹雪のみが虚しく舞いました。
2012,2013年は見事無事にすんで司会の女子アナは感涙にむせびました。
さて,今年は何が起こるのか,お楽しみにご覧ください。
曲目はシベリウスの『フィンランディア』です。
今年最後の曲は,『メリー・ウィドウ・ワルツ』にしましょうか。
(Danilo)
Lippen schweigen, ‘sflüstern Geigen: Hab’ mich lieb!
All’ die Schritte sagen bitte, hab’ mich lieb!
Jeder Druck der Hände deutlich mir’s beschrieb
Er sagt klar, ‘sist wahr, ‘sist wahr, du hast mich lieb!
(Hanna)
Bei jedem Walzerschritt Tanzt auch die Seele mit
Da hüpft das Herzchen klein es klopft und pocht:
Sei mein! Sei mein!
Und der Mund er spricht kein Wort,
doch tönt es fort und immerfort:
Ich hab dich ja so lieb, Ich hab dich lieb!
(Danilo, Hanna)
Jeder Druck der Hände deutlich mir’s beschrieb
Er sagt klar: ‘sist wahr, ‘sist wahr, du hast mich lieb!
(ダニロ)
唇はとざされて ヴァイオリンはささやく
「私を愛して」 と
ワルツのステップよ 言っておくれ
「私を愛して」 と
手を握りあうたび はっきりわかる
あなたの手は告げている
ほんとうに ほんとうに あなたは私を愛している
(ハンナ)
ステップを踏むたび 心も踊る
鼓動が高鳴る
「私のものになって 私のものになって」 と
唇は何も言わないけれど 耳には響く
「本当にあなたを愛している あなたを愛してる」
(ふたりで)
手を握りあうたび はっきりわかる
あなたの手は告げている
ほんとうに ほんとうに あなたは私を愛している
来年こそ良い年になりますように願っています。
お元気で良いお年をお迎えください。