春は花の季節です。
たんに花といえば,昔は梅の花をいい,平安後期からは桜の花のことをさしました。
桜の開花日は花見の予定のためか,気象情報でも毎年予測されていますが,600度の法則というものがあります。
これは,2月1日から毎日の日最高気温を積算していくと,600℃になる頃に開花する,というものです。
また,美しいこと,盛りであること,栄えることの例えとして用いられ,「花の都」「今が人生の花だ」「相手に花を持たせる」などと使われます。
それ以外でも,いろいろの例えがあり,
花に風 「月に叢雲(むらくも)は花に風」の略
:世の中の好事には,とかく障害が多いこと
花が咲く
:盛んになる。努力が実って成功する
花も恥じらう
:花も引け目を感ずるほどの若い女性の美しさの形容
花も実も有る
:外観も美しく,内容も充実していること
花より団子
:風流を解さないこと。名よりも実利を尊ぶこと
花を読んだ和歌もいろいろとあります。
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける
紀貫之
あなたは昔のままの心なのでしょうか。わかりませんね。
でも,故郷には,昔のままに花の香りが匂っていますね。
久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ
紀友則
こんなにも日の光が降りそそいでいるのどかな春の日であるというのに,どうして落着いた心もなく,花は散っていくのでしょうか。
世の中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし
在原業平
世の中に桜というものがなかったなら,春になっても,咲くのを待ちどおしがったり,散るのを惜しんだりすることもなく,のんびりした気持ちでいられるだろうに。
3月は卒業のシーズン,別れの季節でもあります。
今回は『故郷を離るる歌』にしましょうか。
『故郷を離るる歌』
吉丸一昌・作詞 ドイツ民謡(1913.7)新作唱歌(五)
園の小百合 撫子 垣根の千草
今日は汝をながむる最後の日なり
おもえば涙膝をひたす さらば故郷
さらば故郷 さらば故郷 故郷さらば
つくし摘みし岡辺よ 社の森よ
小鮒釣りし小川よ 柳の土手よ
別るる我を憐と見よ されば故郷
さらば故郷 されば故郷 故郷されば
此処に立ちて さらばと 別れを告げん
山の蔭の故郷 静かに眠れ
夕日は落ちて たそがれたり されば故郷
さらば故郷 さらば故郷 故郷さらば
吉丸一昌(1873-1916)大分県出身,作詞家・文学者・教育者。東京帝大国文科卒,中学校・教諭,東京音楽学校・教授。
代表作は「早春賦」など。
ドイツ民謡でありながら,この曲は,とくに1,2番の歌詞が心にしみます。名曲ですね。作詞家の力でしょう。
私には残念ながら故郷がありません。現在でも生れ育った土地に住んでいます。
決して田舎ではありませんが,子供のころは,近くの川辺では蛍が見られましたし,家の近くに小規模の古墳がありましたから,かっこうの遊び場で,カブトムシやクワガタが取れました。
しいて言えば,母の実家が山里の大きな旧家だったので,それが絵で見るような故郷の光景かもしれません。
春本番です。
しかし,油断は禁物。このころに菜種梅雨という,菜の花が盛りのころに降り続く雨があり,雨が降れば気温も下がりますので,気をつける必要があります。
元気で桜の季節を楽しんでください。