吉田けんこうの言いのこし

つぎのような文章は,ほとんどの日本人なら目にしたことがあるでしょう。

 春はあけぼの
 やうやうしろくなり行く 山ぎはすこしあかりて
 むらさきだちたる雲の ほそくたなびきたる

平安時代の作家・歌人の清少納言(966頃-1025頃)による枕草子の書きだしです。

 家の作様(つくりやう)は 夏を主(むね)とすべし
 冬はいかなるところも住まる
 暑きころ悪(わろ)き住居(すまい)堪えがたきことなり

これは鎌倉末期の歌人・吉田兼好(1283-1352)の徒然草の第55段の一節です。

日本の三大随筆の二つをわざわざ紹介したのは,高校時代の古文の嫌な時間を思い出させるためではありません。

文人の清少納言が「春はあけぼの(夜明けの空が明るんできた頃)が良い」というのは,あくまで個人的な見解・嗜好として聞き流せますが,兼好法師のように「家は夏向きに作らねばならない」と断定されると,理系の人間としては,いささか引っかかるところであります。

そもそも
「夏に涼しく過ごせる住居」というのは可能なのでしょうか。
もちろん,これはエアコンなどの機械やエネルギを使うことなしに,という前提です。

まず
夏の暑さの最大の原因は強烈な太陽日射ですから,それを断熱性のある屋根でさえぎることです。
屋根に太陽電池パネルや太陽熱温水器を置くと,太陽エネルギを遮る効果とそのエネルギを有効に利用できるという2つの効果が引き出せます。

つぎに
窓からの日射除けには,庇を深くしたり,外側をヨシズやスダレで覆ったりして,日射を直接居室に入れないようにする工夫が必要です。
とくに西側の窓には効果的です。

そして
涼しく過ごすためには,外気を利用した換気や通風によって室温を低くすることです。
しかし
昼間の気温はすでに高温ですから,夜間の比較的低い気温の空気を利用しなければならないので,そこが難しいところです。
本当は,窓を開けっぱなしにして,夜の外気を室内に取り込めれば,かなり涼しく過ごせるのですが,防犯上の問題や,近隣が密接したような住居では,十分な通気・換気を取り込むのは困難になってしまいますよね。

もう一つの有効な方法は
水の蒸発熱を利用することです。
庭や屋根に散水して,温度を下げるのです。
これも日中では,少々散水してもすぐに蒸発してしまいますから,水の消費量もばかにならないし,やはり夕暮れどきの適当な時間に打ち水をしましょう。

さらに
庭のあるお宅では,植樹をすることです。
木の葉は非常に優れた断熱性能をもつので,木陰はとても快適な空間になります。
その木陰を通った空気を室内に取り込めば,かなり快適な換気になります。
西窓の外側に,植物をはわせる工夫も試みられていますが,植物自体もあまり環境のよくない場所では生育しにくいきらいがあるので,なかなか期待通りには行かないようです。

しかしながら
暑さ寒さもエアコンなどに頼ることを少なめにして,できるだけ自然環境と共生して,ある程度のストレス(外的刺激)を受けながら,少し我慢もして,抵抗力を養いながら生活するというのが,病弱の人や高齢者・幼年者を除く,一般の人々にとって,健康的な生き方というものではないでしょうか。

吉田さんも「けんこう」というぐらいですから,「健康」のことも考慮の内だったのでしょうか。

下着のCMがおもしろい

こんなラジオCMを知っていますか?

<男の声>
 ワコールから すべての女性のみなさまに
ブラジャーのお知らせです。

<女性の声>
 右にずれたり 左にはみ出たりしていませんか
 守ってあげたい 二つのデリケートなふくらみ
 大きいか 小さいか なんて関係ない
 あなたの大切な場所を 手でやさしく包み込むように
 ホールドします。

<男性の声>
 つづいて すべての男性のみなさまに
まったく同じナレーションで メンズ・パンツのお知らせ
です。

先ほどとまったく同じ内容が女性の声で流れます。

<男性の声>
 すべての製品に 同じだけの思いやりを ワコールです。

いかがですか?
おもしろいでしょう。
母印と金○のアナロジー(類推)を, ”二つのデリケートなふくらみ” と称するあたり,なかなかの視点です。

しかし
いくつか相違点もありまして, 大きさも硬さもまるで異なります。
だいいち,女性用は確かにホールドする感覚ですが, 男性用は必ずしもホールドしません。

むしろ通気性を優先する場合のほうが多いようです。
むかしの越中という褌(ふんどし)は, 風にそよぐ帆かけ舟のようでしたし, いまのトランクスもその系統でしょう。

かつての六尺は,確かに「褌を締めてかかる」 表現そのものでした。
いまはそれほどのホールド感のあるものはありません。
ビキニやTバック・サポータにその雰囲気は残っている のでしょうか。

ちなみに
私は昼間にはボクサー型で, 就寝時はトランクスです。
それこそ,まったくの蛇足でした。

永井一郎さんの思い出

声優・俳優・ナレータの永井一郎さん(1931.5.10-2014.1.27)が亡くなりました。
享年82歳の突然死でした。
各メディアはアニメ「サザエさん」の磯野波平の声を40年以上と 伝えましたが,私には別の感慨があります。

最近では
NHK広島局統括の「百歳バンザイ」(2002-2011)の 語り役があります。
100歳以上の元気な高齢者を紹介する10分のドキュメンタリ番組 ですが,PUFFYの「これが私の生きる道」のテーマ曲とともに,ご本人もライフワーク(終生の仕事)として, ご自身が百歳になってもやりたいとおっしゃっていました。

しかし
永井さんの声優としての原点は, なんといっても「ローハイド」(1959-1965)につきます。
テキサス州サンアントニオからミズーリ州セタニアまで3000頭の 牛を運ぶ壮大な西部劇です。

以下は(役職 役名 俳優 吹替え声優)
隊長 ギル・フェイバー エリック・フレミング 小林修
補佐役 ロディ・イエイツ クリント・イーストウッド 山田康雄
コック ウイッシュボーン ポール・ブラインガー 永井一郎

面白いドラマに共通するのが,役のキャラ(性格)が立っている
ということがあります。
元南軍の将校であったボスのフェイバーさんは逞しく頑固で男気
があって統率力にたけ,荒くれカウボーイ達も畏敬する存在。
優男で女に弱くちょっと頼りない軟派な補佐役のロディは 役柄とはいえ,今の硬派なイーストウッドを想像するのは困難。
いつも怒鳴りちらし,見習いのマッシーをボロクソに叱って ばかりいるが剽軽な髭の小男のコックのウイッシュボーンと, 役者がそろっていました。
個人的には,永井さんが高校の先輩ということで, 関心を持って見ていました。
この3人はそろって1962年2月21日に来日しています。

そして
主題歌をあのフランキー・レインが猛々しく吠えるように 歌います。
彼はこのほか
OK牧場の決斗」や「真昼の決闘」のハイヌーン でも有名ですね。
ブロークン(訛り)過ぎて何を言っているのか, ネイティブ(生粋の人)でもそうだったらしいのですが, 迫力と勇壮さは満点でした。

つぎのYouTubeでタイトルバック(題名の背景)に歌が流れます。

このテーマ曲を聴くと, 今でも「血わき肉躍る」状態になるんです。

このドラマは
永井さんの声優としての原点であると同時に, クリント・イーストウッドの俳優としての原点でもあるのです。
これはご両人ともに認めておられることです。

菜の花はうれしい

最初に菜の花が登場する歌です。

b_nanohana

 菜の花畠に 入日薄れ
 見わたす山の端(は) 霞ふかし
 春風そよふく 空を見れば
 夕月かかりて におい淡し

 里わの火影(ほかげ)も 森の色も
 田中の小路(こみち)を たどる人も
 蛙(かわず)のなくねも かねの音も
 さながら霞める 朧(おぼろ)月夜

菜の花の黄色は,心を癒します。
そしてこの歌も,一面の菜の花畠が広がっている その情景が目に浮かんできますね。
歌詞とメロディが融合して,春の黄昏(たそがれ) どきのゆったりとのどかな感じにあふれています。
日本人の好む懐かしい歌を調査すれば きっと上位にランキングされる曲でしょう。

朧月夜
作詞:高野辰之 (1876.4.13-1947.1.25)
作曲:岡野貞一 (1878.2.16-1941.12.29)

この歌は文部省唱歌として,作詞者・作曲者は 長く機密扱いになっていました。

文部省唱歌とは
明治から昭和にかけて 文部省が編纂した尋常小学校・高等小学校・国民学校 等の教科書に掲載された唱歌と楽曲の総称です。

この高野・岡野のゴールデンコンビは 次のような歌も作っています。

故郷」      1914.6   尋常小学唱歌(六)
朧月夜」    1914.6   尋常小学唱歌(六)
春が来た」  1910.7   尋常小学読本唱歌
春の小川」  1912.12 尋常小学唱歌(四)
紅葉」      1911.6   尋常小学唱歌(二)

いずれもみんながよく知っている とても懐かしい曲ばかりですね。

つぎのYouTubeでこの歌を聴くことができます。

菜の花には,次のような有名な句もあります。
 菜の花や 月は東に 日は西に 与謝蕪村(1716-1783)

菜の花は,おひたし・辛子和え,など食用にもなります。
また菜の花はアブラナ(油菜)とも呼ばれ 油をとるために栽培されてきました。
菜種とも言われますね。
菜種油は日本では食用の6割を占めます。

鑑賞用としても,食用としても,加工しても 菜の花は人間に大いに貢献してくれています。
だから自然に懐かしいと感じるのかもしれません。

日和見とは

 

日和見(ひよりみ)とは
天気模様をみて都合のよい方策をうかがうことです。

一般には
形勢をうかがって自分の都合のよい方につこうと二股をかけること,のようにあまり良くない使われ方を してきました。
日和見主義!」というのは糾弾用の言葉でした。

しかし
予測される成行きを考えて,それにふさわしい行動を 決めるということは,実に大切なやり方です。
天候をみて,それに応じた適切なTPOを考えます。
TPOとは,Time(時),Place(場所),Occasion(場合) のことです。

時は春
この季節そのものが,冬と夏との替り目の季節です。
したがって
春は天気や気温が変わりやすいのは あたりまえのことなんです。

この季節の初期,つまり早春には
三寒四温といって,三日ほど寒い日が続いた後に四日ほど暖かい日が続き,これを交互にくりかえす現象があります。

ですから
天気予報をよく聴いて,その日にふさわしいコスチューム (服装)を選択することが大切です。

天気予報はできるだけ新しいものを参考にするのは 言うまでもありません。

人によって暑さ寒さに対する体感が違うので, 自分は暑さに弱いが寒さに強い,とかという自分自身の 体質の特性を把握しておくことも必要です。

たとえば,一般的には
最高気温が10℃前後になると真冬の服装が必要で, 15℃前後になると薄いコートでも十分になり, 20℃を超えると昼間は上着さえも必要なくなります。

しかし
これは個人差による影響がかなり大きいので, それぞれの方がご自分でその境界を探してください。

でも
かなり暖かくなったのに,まだダウンや厚手コートを 着ていたりする人がいると, なんだか「時代遅れ」と思ってしまったり

まだ真冬並みに寒いのに,若い女性にありがちな, 暦のうえだけの春の装いをされると,「伊達の薄着」もつらいね,と思いますが, 同情はしません。
カゼを引かないように,すべては自己責任ですから。

朝晩の冷え込み,日中の日差しの強さ加減,風の吹き方 の程度などによって,体感はかなり変わってきますから, その辺の考慮も必要です。

天候によって,服装を調節して,自分に合った温熱環境に 調整するのは,人間の知恵の一つですから, 変わりやすいこの季節,適切なコスチュームの選択をして, うららかな春のひよりを満喫してください。