うまず たゆまず

倦(う)むとは「飽きる,嫌になる,退屈する」という意味です。
弛(たゆ)むとは「ゆるむ,おこたる,油断する」という意味です。

ですから,倦まず弛まずとは,飽きることなく緩むことなくコツコツとやること,の意味で使います。

現代は「コスパ」とかいって,効率化ばかりがもてはやされて,地道にコツコツと努力を積み重ねることが,ともすればなおざりにされているような気がします。
ここでコスパとはコスト・パフォーマンスcost performance)の略で「投入する費用に対する成果の割合」のことです。

トーマス・エジソン(1847-1931)は「あなたは発明の天才ですね」と言われて,「私を天才というのなら,天才genius)とは1%の霊感inspiration)と99%の発汗persupirarion)です」と答えた,という伝説めいた話があります。

実際,エジソンは試験体をたくさん用意して,片っ端から実験して,良いものを選び出す,といういわゆる試行錯誤trail and error)を繰り返して,より良いものを選択した,と言われています。

よく知られている白熱電球の発明は,実はジョセフ・スワンという人でしたが,エジソンは京都の竹をフィラメントに使って改良し,電灯の事業化に成功しました。

ノーベル賞級の研究でも,1つの結果が出るには99回の失敗程度では済まない,たくさんの時間と努力を継続した,愚直ともいえる繰り返しの試行が必ずあるのです。

例えば「錬金術」のように成功しなかった研究も,その試行の過程で,硫酸・硝酸・塩酸などの化学薬品の多くが発見され,実験用具も発明され,その成果は現代の化学に引き継がれています。
ここで錬金術とは,化学的手段を用いて卑金属から貴金属(特に金)を精錬する試みのことです。

女子フィギュア・スケートの宮原知子(1998-)さんのようにコーチからも「努力の天才」と呼ばれているような選手はきっと大成するはずです。みんなで応援してあげましょう。

なにごとによらず,倦まず弛まず努力を継続することで,きっと素晴らしい結果が生まれるものです。

よしんば,具体的な成果につながらなかったとしても,努力を継続したという逞しい経験が,その後の人生で宝物になるはずです。

ところで,先日オペラに行ってきました。
出し物はプッチーニの『蝶々夫人』。
歌手もオーケストラも日本人の公演でしたので,安心してみることができました。というのも,スタッフに振付・所作指導という人もいましたから,着物の着付けや所作に違和感が少なかったようです。

しかし,イタリア人のプッチーニは日本を訪れたことはなく,在ミラノ日本総領事夫人から日本の音楽の資料を得て作曲したので,耳馴染の旋律が何カ所も聞くことができますが,しょせん西欧目線の日本観で,違和感は隠せません。
想像の国・日本の明治時代の長崎を舞台に,アメリカの海軍士官・ピンカートンと没落藩士の娘・蝶々さんが出会い,夫婦となり,,そして悲劇的な最後になります。

じつは,オペラには3大失敗と呼ばれるものがあり,

1.ヴェルディの『椿姫』初演1853年
2.ビゼーの『カルメン』初演1875年
3.プッチーニの『蝶々夫人』初演1904年

現代では有名な3作品の初演がことごとく不評でした。

椿姫は,イタリア人のヴェルディが作曲,フランスのパリを舞台に,高級娼婦・ヴィオレッタと青年貴族・アルフレードとの恋の悲劇です。

カルメンは,フランス人のビゼーが作曲,スペインのセビリアを舞台に,自由奔放なジプシー女・カルメン,衛兵伍長・ドン・ホセ,闘牛士・エスカミーリヨの織りなす恋の悲劇です。

ここで,日本を舞台にしているからといって,日本オペラと言わないように,作曲者の国籍や書かれている言語によって,イタリア・オペラやフランス・オペラと呼ばれます。

今回は,『蝶々夫人』の第2幕で,ピンカートンを待ちながら,再会を想像しながら蝶々さんが歌う,余りにも有名な『ある晴れた日に』を聴きましょう。マリア・カラスが歌っています。

ある晴れた日
海の彼方にひとすじの煙が上がるのが見えるでしょう。
やがて船が姿を見せます。
その真っ白い船は港に入り 礼砲を轟かせます。
見える? あの人がいらしたわ!
でも私は迎えには行かないわ。行かないの。
あそこの丘の端に立って待つわ 長い時間。
長い時間待ってもなんともないわ。
すると・・・人々の群れから離れ
小さな点のように見えるひとりの人が
丘に向かって来るわ。

誰でしょう 誰かしら。
どんなふうにして着いたのかしら。
なんと言うでしょう。なんて言うかしら。
遠くから 「蝶々さん」 と呼ぶでしょう。
でも私は返事をしないで 隠れているわ。
それはちょっとはいたずらでもあるし
久しぶりに会うので喜びに死んでしまわないためでもあるのよ。
それであの人は少しばかり心を傷めて呼ぶでしょう。呼ぶわ。
「かわいい妻よ 美女桜の香りよ」
これはあの人が来た時私につけてくれた名前なの。
(スズキに)
すっかりこのとおりになるのよ 約束するわ。
あなたは心配していればいいわ。
私はかたく信じて あの人を待ってます。

やはり,恋愛は誠心誠意,真面目に対応しなければ,こんな悲劇を生むことにもなりかねません。

時は春,桜のシーズンとなりました。
しかし「月に叢雲(むらくも)花に風」のたとえにもあるように,好事にはとかく障害の多いもので,「花冷え」という言葉もあり,夜桜見物ではかなり冷えることもありますので,注意して,この良きシーズンをお楽しみください。