夏がくれば

梅雨が明ければ,本格的な夏です。
この季節を代表するような和歌は,持統天皇(万葉集)のものが有名ですね。

春過ぎて 夏来るらし 白たえへの
衣干したり 天の香具山

また,7月2日は72候(24節気を3分割したもの)一つ,半夏生(はんげしょう)です。

karasubishaku

これは半夏,つまり烏柄杓(カラスビシャク,さといも科の多年草)という薬草が生える頃です。

この季節の歌はなんといってもこの歌です。
夏の思い出江間章子・作詞 中田喜直・作曲 石井好子・歌(1949)

夏が来れば 思い出す
はるかな尾瀬(おぜ) とおい空
霧のなかに うかびくる
やさしい影 野の小路(こみち)
水芭蕉の花が 咲いている
夢見て咲いている 水のほとり
石楠花(しゃくなげ)色に たそがれる
はるかな尾瀬 遠い空

夏が来れば 思い出す
はるかな尾瀬 野の旅よ
花のなかに そよそよと
ゆれゆれる 浮き島よ
水芭蕉の花が 匂っている
夢見て匂っている 水のほとり
まなこつぶれば なつかしい
はるかな尾瀬 遠い空

江間章子(1913-2005)さんは新潟県に生まれ,岩手県八幡平市に移住,静岡県に転居,静岡高等女学校,駿河台女学院卒,作詞家,詩人。
代表作は,夏の思い出のほか,花の街團伊久磨・曲),花のまわりで大津三郎・曲)など。

江間さんの歌は,歌詞がみんな美しく上品で,どれも楽しめる曲ばかりです。

じつは,ミズバショウは尾瀬沼では5月末くらいに咲きます。

mizubasho

実際の夏に訪れて,ミズバショウが見られない,という事態が発生しています。
ですから夏の思い出としては少し季節感はずれていますね。
以前にも述べましたように歳時記など,文学的表現では夏の季語ではあります。
しかしこの歌のおかげで尾瀬沼は全国的に知れわたり,大人気の観光スポットとなって,地元の人たちは大喜びしています。

また,この歌は詞と曲の融合性がよくて,とても耳障りが良いのです。

バリトン歌手の畑中良輔(1922-2012)がリサイタルでこの歌を歌っていたときのこと,「しゃくなげ色に たそがれる」と歌うべきところを,先に「たそがれ」と出てしまったのです。
それで仕方なく「たそがれ色に しゃくなげる」と歌ってのけたのです。
それでも聴衆者たちはほとんど気が付かなかったといいます。

中田喜直(1923.8.1-2000.5.3)さんは東京の出身,東京音楽学校ピアノ科卒で,20世紀を代表する日本の作曲家です。
父は「早春賦」を作曲した中田章,兄は作曲家・ファゴット奏者の中田一次
代表曲は「夏の思い出」のほか
雪のふるまちを内村直也・詩 高英夫・歌(1951)
めだかの学校茶木滋・詩 安西愛子・歌(1951)
ちいさい秋みつけたサトウハチロー・詩 伴久美子・歌(1955)
心のまどに灯を横井弘・詩 ピーナッツ・歌(1959)
君よ八月に熱くなれ阿久悠・詩 高岡健二・歌(1977)
など多数。

とくに
夏の思い出」と「雪のふるまちを」は夏・冬を代表する曲となっています。

これは
名曲「朧月夜」「紅葉」(高野辰之・詩,岡野貞一・曲)の春・秋に匹敵する快挙といえます。

さわやかな歌でも聴いて,厳しい夏を乗り切りましょう。

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