こどものうた

日本には昔から,わらべうた(童歌)というものがありました。
子供が遊びながら歌う,むかしから伝えられ歌い継がれてきた歌です。

わらべうたは絵描き歌・数え歌・遊び歌の3つに分類されます。

絵描き歌, たとえば「へのへのもへじ

日本人ならだれでも知っている絵ですが,むかしは,この落書きがよくありました。

数え歌, たとえば「京都の通り名数え歌」(北から南へ)

丸竹夷二押御池(まるたけえびすに おしおいけ)
姉三六角蛸錦(あねさんろっかく たこにしき)
四綾仏高松万五条(しあやぶったか まつまんごじょう)
雪駄ちゃらちゃら魚の棚(せったちゃらちゃらうおのたな)
六条三哲通りすぎ(ろくじょうさんてつ とおりすぎ)
七条越えれば八九条(ひっちょうこえれば はっくじょう)
十条東寺でとどめさす(じゅうじょうとうじでとどめさす)

京都の通りの名前を覚えるのに最適で,実用的で役に立ちました。

遊び歌, たとえば「かごめかごめ

かごめかごめ
籠の中の鳥は  いついつ出やる
夜明けの晩に  鶴と亀が滑った
後ろの正面だあれ?

子供のころ,この遊びをした覚えがあります。

童謡(どうよう)とは,広義には子供向けの歌を指しますが,狭義には大正時代後期以降,子供に歌われることを目的に作られた創作歌曲を指します。

また,唱歌(しょうか)は,正式には文部省唱歌といいますが,明治から昭和にかけて文部省が編纂した,尋常小学校,高等小学校,国民学校および学制改革後の小学校の唱歌,芸能科音楽の教科書に掲載された楽曲の総称です。

つまり,教科書に載っていたのが唱歌で,それ以外が童謡と思えば分りよいでしょう。もちろん,わらべうたは別です。

戦後10年を経て,新しい子供の歌を創るグループができました。
その一つが「ろばの会」で,「新しいこどものうた」第1集のあとがきに,グループ最年長者の磯部俶さんの言葉があります。

”ろばの会” は私たち五人のメンバーによる童謡作曲の研究グループです。よい詩によい曲を付すためには,どうしても外部から依頼される仕事のほかに,自主的にこどもの歌の創作に努めるべきだと思ったのです。幸い多くの詩人たちの協力があり,毎月たくさんの詩稿がこの会のために寄せられるので,その中から各人が選んで作曲をします。出来上がったものについてはお互いにきびしく批判し合い,更には詩人たちを招いて演奏し,意見をきくこともしてきました。こうして発足以来一年半の間にたまった作品の中から,作曲者の自薦によって一巻としたのがこの曲集です。
私たちはこの曲集を仕事の第一歩として,意義深いこどもの歌の創作に信念を持って努力をつづけたいと思っています。
ー 後略 -      1956年9月     磯部俶

その五人のメンバーとは,

磯部俶(1917-1998)
さくらのはなさん」(まど・みちお・詞),「びわ」(まど・みちお・詞)など。

宇賀神光利(うかじん,1923-1967)
たなばた」(清水たみ子・詞),「冬の夜」(勝見晃敏・詞)など。

大中恩(1924-)
サッちゃん」(阪田寛夫・詞),「いぬのおまわりさん」(さとう よしみ・詞)など。

中田一次(1921-2001)
おこりっこなしよ」(深尾須磨子・詞),「キリン」(清水たみ子・詞)など。

中田喜直(1923-2000)
もんく」(小林純一・詞),「おんぶとだっこ」(サトウ・ハチロー・詞)など。

中田喜直さんには,この曲集には入っていませんが,「めだかの学校」(茶木滋・詞,1951)など多数あります。

ろばの会編「新しいこどものうた」は,宇賀神さんが早逝されたことによって第5集(1967)で終了します。
ご健在なのは,大中恩さんだけになってしまいました。

紹介したい曲は数々ありますが,季節がら,この曲にしましょうか。


ちいさい秋みつけたサトウ・ハチロー・詞 中田喜直・曲(1955)

だれかさんが だれかさんが
だれかさんが 見つけた
小さい秋 小さい秋
小さい秋 見つけた
目隠し 鬼さん 手の鳴る方へ
澄ました お耳に かすかに沁みた
呼んでる口笛 百舌(もず)の声
小さい秋 小さい秋
小さい秋 見つけた

だれかさんが だれかさんが
だれかさんが 見つけた
小さい秋 小さい秋
小さい秋 見つけた
お部屋は 北向き 曇りのガラス
うつろな目の色 溶かしたミルク
わずかな 隙から 秋の風
小さい秋 小さい秋
小さい秋 見つけた

だれかさんが だれかさんが
だれかさんが 見つけた
小さい秋 小さい秋
小さい秋 見つけた
昔の 昔の 風見の鳥の
ぼやけた 鶏冠(とさか)に はぜの葉一つ
はぜの葉 赤くて 入日(いりひ)色
小さい秋 小さい秋
小さい秋 見つけた

この曲も第1集に集録されています。

新しい「こどものうた」の活動のおかげで,たくさんの名曲が生まれました。
しかし,古い童謡・唱歌も日本人の心を慰めますから,歌い続けていきたいものです。
秋の夜長,聴くのもよし,歌うのも更によし,です。

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